「Magical Sweetie」
「うわっ!てめっ・・・なっなっなにしゃがるーーーーー!!!!!」
「ちょ・・っうごく・・・・・っいっつーーーーーーーー!!!!!」
エドのひざの上に頭を乗せていたロイは転がるように崩れ落ち、エドはソファーから立ち上がり仁王立ちになっている。
それもそのはずだ。何とかエドを言いくるめて耳かきをしてもらっていたロイは調子に乗ってエドの尻を撫でたからだ。
「言ったよな!何かしたらもう二度としねぇって!!」
今日はこれで怒ってソファーから立つのは何度目だろう。
足元の絨毯の上に転がっているロイを指差して怒鳴ってみるものの
うずくまって耳を押さえたまま全く動かない。
「ムカツク!!返事がないなら帰る!」
「ちょっと待ってくれたまえ・・・・今、耳が・・・・」
いつもと違う大佐の弱々しい声に目が点になるほど驚いた。
えっ・・・・もしかして耳の・・・・?
「落ちた拍子に耳に何か刺さったような気がするんだか・・イタタ」
まだ、転がり耳を押さえたままでいる。
えっと・・・もしかして・・・
「大佐、ちょ・・・誰か呼んでこようか?」
もそもそと体を起こして起き上がる大佐にぎょっとした。
「た、大佐・・・?耳からなんか・・・・」
耳から見慣れない色がついている。
「ちょっ大丈夫かよ?耳が・・・」
慌てて大佐の机からティシュを取ってくると数枚引っ張り出して血をそっと拭った。
「耳が痛いんだが・・・どうなっているんだ鋼の?」
「えっ・・・・・・」
今度は大佐をソファーに座らせているので確認に為に聞いているのだろう。さっきいくら尻をいやらしく撫でられたとはいえ耳から血が出てこんなにも痛がるとは思ってもみなかった。
不本意ながらでも怪我をさせてしまった罪悪感がある。
だからこそ大佐の一言でどう説明していいのか躊躇った。
「・・・・えっと・・・・耳は聞こえるんだな?」
「・・・・聞こえるが・・・さっき耳がどうのとか・・・?」
顔色が変わるのが分るぐらい気が動転した。
耳元で抑えているティシュは少し赤く汚れてどうにも言い逃れできない。
どうしょう・・・
こんなことになるならつねるとかぐらいにすればよかった。
大佐の耳は聞こえている、けど怪我をしているのはごまかせない・・・
大佐の前に膝をついてしどろもどろに顔を見ながら言った。
「血が・・・その耳から・・・出て・・る・・・・」
耳元に当てていたティシュをとってみると思ったより出血は少なかった。確認に大佐の顔を交互に見て声を絞るように出した。
「ごめっ・・・怪我すると思っても・・・みなかった」
「鋼の・・・・」
呆れた顔でロイに呼ばれると気まずい雰囲気が流れエドは下を向いてしまった。小さい体がいっそう萎縮しているのがよくわかる。
「鋼の・・・」
再び呼ぶと今度は驚いたのかビクッと体が揺れた。
「ほんとにわざとじゃねーんだよ・・・ごめんってば」
顔をあげて言う言葉には反省の色が濃く滲んでいた。
それもそのはずコロコロ変わる表情は眉を八の字に寄せていつもの勢い がまったく無い。
やれやれ、いつもこれくらいだと可愛げあるんだが・・・
そんなことを考えるよりこの窮地を利用せずにはいられない。
中尉はコーヒーを出すとかいいながら忙しいのかまだこっちにはこないしいつもとやかく言う部下も今はいない。
幸い耳から血が出て痛いがそれも一時的なことで鼓膜を突いたとかそんな大事にはなっていないだろう。
鋼のは今自分がやってしまったと思って反省をしている。我侭をここで言って困らせるのもいいがそこまですると嫌々ながらにでも耳かきをやろうとしてくれたのに少し可愛そうな気もする。
元を言えば鋼のの腰から太もものラインをそれとなく触れるつもりが
大騒ぎまでなっているんだ。それならまだ名残惜しい耳かきをして貰う方が騒ぎも大きくならずに済んでまた居眠り出来るはずだ。
「おっ・・・俺、ちょっと中尉よんでく・・」
「ちょっと待ちなさい」
立ち上がろうとしているところに腕を掴んで引き止めるとエドは振り返った。
「えっ・・・大丈夫かよ?なぁ?」
「痛みも引いたし耳も聞こえる。心配するほどでもない」
計画発動前から中尉がきては意味が無い。
君がここにいなければ話にならない。
「ああ、耳かきでちょっと引っかいただけだそんな顔しなくても私は死なないよ」
「ばっ・・・・・!てめぇ・・・・」
顔を赤らめて口だけパクパクとさせているがすぐに下目使いで睨みながらフンと鼻を鳴らすとエドは安心したのか拗ねるように喋り始めた。
「死なないってってアンタが心配でどうしたらいいのか怖くてビックリしたのに・・・なんか損した!」
相変わらず君は嬉しい事を言ってくれる。
困って拗ねている姿すら可愛く思えてくるじゃないか。
「はははっそう簡単に私を殺さないでくれないか?」
乾いた笑いをたてるが冗談にもならないらしく口元が引きつり今にも文句が出てきそうな顔色でみている。
多分もう耳かきなんてこりごりしているのだろうが・・・
そこは譲れないので言葉を続けていく。
「反省は・・・・はしているんだな?」
「そりゃ・・・してるよ」
口の先を尖らせて上目使いを無意識にしている鋼のをみてつい微笑ましくなるが口元を緩めている場合ではない。
「さっきは君にしては珍しく『ゴメンナサイ』も言えていたしそうだな・・・」
自分でも分かるくらいに嫌味たっぷり含みを持たせるようにみせかけて鋼のの顔色を再びみてみる。
この仕草だけでも普段は頭に来て何か言ってくるはずだ。だがよっぽどびっくりしたのか下を向いたり上を向いたりして落ち着かない様子でこちらをみていた。
「まさか君をとって食ったりしないさ私は勤務中だからね」
「食ってって・・・・いつもじゃん!ってかあんたそんなのばっかじゃねぇかよ!この変態!!」
「いつもって・・・・」
少々むっとしたが掴んだまま離せないでいる腕をぐっと引き寄せてみせて鋼のを驚かせてみせる。
「うわっ・・・とっと!何すんだよ?!」
体が倒れてきた瞬間、細い腰を抱き寄せてゆっくりとソファーに覆いかぶさる。下になっている鋼のは驚いた顔をしたが慣れた様子でため息をついた。
「時々あんたってアルよりも年下の弟のように思えてくるよ」
「私が君の弟になったら可愛がってくれるかね?」
鋼のは普段の態度から思えないほど人の世話ができる。
「ばぁーか、それよりどいてくんね?」
君の憎ったらしいものの言い様がなぜか心地がいいよ。
鋼のに倒れこむとゴロゴロと猫のように甘えたしぐさをしながらお願い をしてみた。
「さっきの続きだが・・・やっぱり耳かき続けて欲しいんだがいいかね?」
こうすれば大体の事なら承諾してくれる。
命令は嫌がるがお願いはよく聞いてくれる性質なのだ。
「ちっ!しゃーねーなー!!右はさっきやって血が出たから左だ!」
照れているのか顔を背けながら座りなおしている。
「ただし!さっきのように触ったりしたらしばくからな!」
「はいはい、そりゃもうごもっとも」
苦笑いしながらまた転んだ。
そうして鋼のがせっせと耳かきをしている間、長い沈黙が続きまぶたが眠気で降りてきそうな時に上から声がした。
「よくさ、小さい頃母さんの耳かきして貰ってさ」
「うん」
鋼のの顔は見えない、薄目を開けているのがやっとだが・・・・・・・
幸せな顔をしているだろう。
「アルと順番だってのに取り合いして困らせて・・・」
昔の幸せな記憶を辿っているが鋼のが今いる場所はそうではない。
「うん」
「母さんを困らせて・・・・」
「私がいるから大丈夫だ。」
声に詰まらせて泣いているのかと思い、言ったがなんの慰めにもならない。いつ賢者の石が手に入るのか、さえ保障がないのだから期待を持たせる事自体が酷な事だ。
「・・・・・・うん」
「私だけじゃない、君には味方がいっぱいいるじゃないか。」
「うん」
故郷や東方司令部、君の事だからきっと君達に出会った人の中にも味方はいるだろう。
「はははっ・・・・今の大佐って大人だな」
「少なくても君よりは年上の大人だよ?そして誰よりも君を愛しているのだけは憶えときたまえ」
そう言うと瞼と思考が柔らかい眠りの海の中に落ちていった。
「アレ?大佐もしかして寝ている?」
耳かきを終えて声をかけてみれば応答がない。
思えば途中から妙に重たい気がする。
・・・・・多分さぼって居眠りをする口実に使われたんだろう。
時計を見ればもうそろそろ夕方になっていた。
大佐をこのままにしておくにはなんだか勿体無い気分だ。
暖かさが伝わって心地いい気分のまま大佐同様寝てしまえそうなのだから。
「大佐?おきねーなら俺も寝るぞ?」
声をかけてもびくともしない。
抱き合う時間もいいけどこうしているのも悪くねぇーよな・・・
いっつも切羽詰って頭の中はいっぱいいっぱいになってしまうし・・・・
ってか・・俺も寝たい・・・・・
大佐とソファーの背もたれの間に体を傾けると意識が重く遠のいていく
あぁ、暖かくて気持ちい・・・
まるで大佐とベッドの中にいる・・よう・・・・・・
多分、この暖かさに包まれているから俺は生きていけるんだ。